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2021.01.19

英雄たちの選択(古代史スペシャル)

録画していた(1月3日放送の)「英雄たちの選択」を見た。「古代史スペシャル 古代人のこころを発掘せよ」と題して縄文、弥生、古墳時代の新しい発見を知ることができた。副題のごとく興味深く面白い話題であった。(特別に2時間枠ということで見るのを先送りにしていた。)

 司会は磯田氏、ゲストの顔ぶれは松木(歴史民俗博物館)氏以外は作家の荒俣氏、土器土偶ファンのタレントいとうせいこう氏、「脳科学者」中野氏という面々で、各時代についての新たな知見が取材ビデオで紹介される内容だった。縄文時代については岡山大学の松本先生の土偶の表情表現の変遷に関する認知考古学の研究、弥生時代については海外交易が統一国家形成以前にすでに活発に行われていたという武末先生の提唱されている「海村」をめぐる諸研究、古墳時代では古墳の変遷の諸研究が紹介され、北九州地方の大陸系の模倣でもなく、大和王権の様式とも異なる独自の装飾古墳を「脳科学者」中野氏が訪れる、という内容であった。

 いずれも各時代の内容を深める興味深い内容であったが、ここでは特に心理学的な方法を用いた岡山大学の松本先生の土偶の顔表情の変遷についての研究をメモしておこう。

 縄文期の中期から後期にかけて主に東日本に分布する土偶の表情や形態の表現に大きな変化が見られる。これらの変遷から「縄文人のこころの変化を心理学実験で迫る」、とされる大変挑戦的な研究が紹介された。松本先生による心理学(出自は言語学の方法)の方法(SD法と因子分析?)を用いた表情認知の研究が紹介された(認知考古学と呼ばれる分野)。

 地域や時代によって表情表現が異なる その背景には何があるのだろうか、どのような感情を込めたかったのだろうか
どのような感情を表現しようとしたのだろうか。またそのような土偶を見たときにどのような感情や意味が理解されたのであろうか。土偶の変遷から縄文時代の人々の心性を読みとろうとする試みである。

 松本先生の土偶の表情変化の研究は次のようなものだった。

(実験参加者)考古学を専攻していない日本人学生30名、多国籍の留学生17名(6色で描かれていたのでおそらく5カ国3名、1カ国のみ2名)
(材料)時代および地域の異なる30体の土偶の顔の線画イラスト(A4サイズ程度)

(手続き)線画イラストをそれぞれ30秒間提示し、実験参加者にSD 法(5件法 どちらでもないを含む、当てはまるー当てはまらない尺度)で表情の評価を求めた。

 感情用語6項目(怒り、喜び、驚き、恐怖、憎悪、悲しみ)、印象評価5項目(滑らかなーごつごつした、男性的ー女性的、人間らしいーらしくない、出来の悪いーよくできた、親しみやすいー親しみにくい)であった。

(分析方法)分析方法については特に言及されなかったが、おそらく、SD法評価結果について因子分析を行い、2次元解を得て、各顔図形の因子スコアーによってイメージマップを作成されたものと思われる。

(結果)「にんげんらしさ」、「男性らしさー女性らしさ」と解釈された2次元のイメージマップが示された。

このイメージマップから、縄文中期の土偶は「女性的」因子得点高く、目鼻が小さく可愛らしい印象、後期以降の土偶は「男性的」因子得点が高く、面長 鼻筋 大人びた印象とされた。

 縄文時代中期の代表的な土偶とされる国宝「縄文のビーナス」(ふくよかな妊娠した女性の姿とされている)は「女性らしさ」得点が高い、縄文後期の代表的な土偶 国宝「合掌土偶」(太い眉 一見男性らしく戦士のようにも見えるが 妊婦像とされている)は「男性らしさ」得点が高い。

(考察)得られたイメージマップについて土偶の変化の考古学的解釈

縄文中期の土偶はふくよに表現され、多産を象徴しているのではないか。一方、縄文後期、晩期ではより逞しく厳しい表情の女性像となる。これら女性の顔表情の違いをもたらしている要因として、縄文中期から後期にかけて大きな気候変動があげられた。寒冷化にともない、それまでの平穏な暮らしが一変し、急激に人口が減少した(特に東日本では25万人から14万人へ、ただし西日本では9400人から1万9600人に増加)。縄文中期における大集落の維持は困難になり、ゆとりある生活から厳しい環境へ変化していった。このことから、土偶の表情や表現の変化は女性の在り方、役割も変化していったことが反映されているのではないか。土偶は人間の「思い」を表現しようとするもので、願いや祈りを託すものだったのでないか?という推測がされた。

 この研究から古代の人々の表情認知についてどのような推論をすることができるのだろうか。気候環境の変化と土偶表現の変化を結びつけることは、特にこの顔イメージ研究結果を示さなくとも時系列に並べた土偶像から推論できるものと思われる。出土品の連続性や変遷を知覚的認知的な原理にそって統計的に整理することが、これまで行われてきた出土品の整理法・分析法とは異なる解釈をもたらすものなのか判断することはできないのであるが、このような心理学的分析によって土偶像から受ける印象を「客観的に」分類すること、また、分類者自身も気がつかないような判断次元や分類の基準が明らかになる、といった可能性はあるように感じられる。

 発掘された多数の資料や科学的に推測される環境変動のデータを前にすると、当時の人々は何を思い、どのような感情を持ったのだろうか、という思いは余計につのるものなのであろう。基本感情の表情理解については文化普遍性があることが知られている。松本先生の研究はこのことを前提にして当時の人々の心性を「擬現代人化」して想像してみようとする試み、ということになるだろうか。認知考古学では他にどのような心理学的方法が用いられているのか調べたことがないので知らないことばかりなのだが、むしろ心理学の調査や実験手法によって擬現代人化を脱した新しい見方をもたらす可能性が期待されているのかもしれない。

(もうだいぶ前のことであるが実験考古学関係の本を聞きかじったことがある。実験考古学は例えば土器を実際に製作復元してみる作業を通じて当時の人々の技術や能力を検証しようとするもので、行動主義的な心理学と類似性があると思ったことがある。)

 

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