« 故障 | Main | 心理学のカリキュラム »

2008.07.02

遙かな町へ

谷口ジロー 「遙かな町へ」 小学館ビッグコミックス・スペシャル 2005

 同郷のしかも同世代の漫画家ということで、作品にも故郷の風景が描かれ親しみを覚えていた作者の最近の作品。主人公の中原博史は40代後半で、仕事に忙しく幸せにも気がつかず暮らしていた。ある日、出張で乗り間違えた列車で数十年ぶりの故郷に向かい、母親の墓参りをするのだが、そこで14歳の中学生時代にタイムスリップし、その後の歴史を知っている少年として再び故郷で思春期をすごすことになった。
 懐かしい風景の中で、思い出の中にしかありえない思春期のさまざまなエピソードが懐かしくまた手にはとどかないものとして胸にひびく。自分の中に同じ思いのあることに気がついた博史は現在の本当の年齢とほぼ同じ頃に新しい人生を求めて失踪した父の生き方を理解することができ、いまの幸せと向き合う決心がついたかのようだ。そして、再び、タイムスリップした母親のお墓の前でふたたび現在の時間に戻ってくるというストーリーだ。
 タイムスリップそのものはとりたてて目新しいストーリーとは言えないが、ちょっとくたびれてきた中年の生き方の模索、もうかえることのできないふるさとや思春期の思い出、ながく理解することができなかったさまざまな事柄への思いは普遍的なテーマであると感じられた。また、終章で中学時代の親友島田大介から小説「遙かな町へ」が送られ、その謹呈の辞は「時の旅人へ」と記されていた。このエピソードはタイムスリップに不思議な現実感を与えることに成功しているように感じられた。
 夏目房之介氏の解説は「失われた「何か」の再現」というもので欧州でさまざまな賞を受け、ベルギーでは映画化の企画も進んでいるということである。

|

« 故障 | Main | 心理学のカリキュラム »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 遙かな町へ:

« 故障 | Main | 心理学のカリキュラム »