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2006.12.25

パーソナルコンピュータによる心理学実験入門

北村英哉・坂本正浩(編)ナカニシヤ出版(2004):副題「誰にでもすぐできるコンピュータ実験」

心理学とコンピュータの関わりは意外なことかもしれないがとても深いものがある。本書は心理学の研究法としてのパーソナルコンピュータの最近の利用の仕方がわかりやすく紹介してある。実験心理学の分野では刺激の提示装置、実験プログラムの制御、反応の記録、データの分析など研究のすべての局面で利用されていて、文字通りデスクトップ・ラボラトリーのジャンルを構成しているといっても良いだろう。今日ではPCそのもののハードウエアの性能は十分なものになっているので本書で取り上げられているのは主にソフトウエアである。

手軽なところではまずパワーポイントを刺激提示装置として利用する例が取り上げられている。これは往年のメモリードラム的な利用法である。時間分解能が秒単位で充分ならばこれだけでも便利な刺激提示装置として使うことができる。ただし、反応は取り込めないので選択反応の記録や反応時間等の測定はできない。

実験プログラムは従来は汎用の手続き処理のプログラム言語をつかって作るのが一般的であった。本書で紹介されているDelphi、BASICなどがよく用いられているが、HSPはフリーのソフトウエアながら画像の提示時間や反応時間測定でミリ秒単位の制御が可能になっているとのことだ。「文法」もBASIC様ということなので手軽に利用することができるだろう。

実験プログラムは研究分野によってある程度定型的なパターンが決まっている。しかし、これを手続き処理型のプログラム言語で書くとそれなりに複雑な作業となる。従来はプログラムは自分で書くしかなかったのだが、最近では心理学実験に即した実験プログラム開発環境が比較的手軽に入手出来るようになっているようだ。このような開発環境で代表的なものにE-Primeや本書で取り上げられているSuperLabやInquisitがある。SuperLabをとりあげた章ではStroop課題の実験プログラムが例としてとりあげられている。実験の最小ユニット(Events)、試行(trials)を定義し、これらを組み合わせてブロックを定義していくことで実験プログラムをつくっていくことができる。実験に必要な基本的なパーツがあらかじめ提供されていてこれらを、丁度、レゴのようにユニットとなるブロックをくみあわせていくようにして実験プログラムを作っていけるようになっている。イベントでは正誤反応の設定、反応毎のフィードバックも設定することができる。

Inquisitも同様の開発環境であるが、SuperLabをGUI型にたとえるとこちらはコマンド型にたとえられるだろうか。Inquisitの開発者は心理学の研究者であるとのことで、現在はMS社のVisual Basic部門で働いているということだ。本書では「潜在連合テスト」の例が取り上げられているて、「語彙決定課題」における「閾下プライミング効果」を利用する新しい「態度測定」の方法が採り上げられている。通常のCRTをつかってミリ秒単位の提示時間制御が可能となっている。

これまでのところPCではもっぱらDelphiを利用して実験プログラムを作ってきたが、このような新しいソフトウエアを使えば、これまでより「楽に」しかも正確なプログラムを書くことができそうだ。(長期的には、汎用の言語と異なり、特定の開発環境に依存する危険性は残されることになるがのだが、サポートの問題が出る頃にはたぶんより使いやすく簡便な開発環境が提供されるだろうから、心配することはないだろう。たぶん。)

本書を通じて最近の実験プログラムの開発環境の様子を知ることができた。 SuperLabとE-prime(およびInquisit)を試用してみようと考えている。

本学で1990年にまとめた「心理学に必要なコンピュータ技術」も今日的な内容で改訂しなければ、と思う。

目次
1.PowerPointによる心理学実験
2.SuperLabによる心理学実験
3.Inquisitによる心理学実験
4.インターネットによる調査と実験
5.心理学実験プログラミングの基礎
6.心理学実験プログラミングの実際:HSP編
7.同:Visual Basic編
8.同:Delphi編
9.シミュレーション・プログラムの実際:Delphiの応用
資料

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