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2003.12.26

フロイト先生のウソ

ロルフ・デーゲン(Rolf Degen 赤根洋子訳)フロイト先生のウソ Lexikon der Psycho-Irrtuemer 文春文庫 2003

 ドイツにおける精神医学や心理学がどのように間違っているか、また世間一般の人々はどのように精神医学や心理学を誤解しているのかについて、実証的研究をもとにして例証している。著者は科学ジャーナリストで研究者ではないが、ドイツ心理学会から出版賞を受賞した記されている。

 この本では精神医学や心理学(精神医学の領域に近いものから基礎的な領域まで広範にわたる)の「ウソ」(事実によって支持されないにもかかわらず、該当領域の「専門家」は信じている事柄)や一般の人々が信念として信じている人間性や「こころ」の問題が取り上げられている。
 
 人間や心理学についての迷信や俗説は根深いもので、そのもっとも影響力の大きい「物語」としてフロイトの説が取り上げられている。実際この説は「多産性」という意味では突出している。しかし、「抑圧・無意識・幼児体験の重要性といった、フロイト理論の基本となる仮定が批判的検証に耐え得ないものであるにもかかわらず」なぜかくも頑強に一般のひとびとの信念として生き残っているのだろうか。本書では「心理学」について一般的に信じられている80項目ほどをとりあげ、それぞれに対し、実証研究をあげて事実をただしている。これを読めば最近では一般的な話題のなかにもしばしば登場する、トラウマ、催眠、心理療法、マスメディアの影響、等々の実態は「定説」といかに異なるものであるかを痛感する。テレビなどのコメントを聞きながら、あれは本当はこうなんだよ、といったうんちくやつっこみ用に必須の書物とも言える(へえー度はかなりあがるものと思われる)。

しかし、この本で行われれている批判が正しいことは問題を解決するものではないのは明らかだ。「現代心理学の基礎である批判的思考はとうの昔に放棄され、利益志向・権力指向に取って代わられてしまった」ことを認識し、そこから出直すために必要な本であると思う。

心理学関係の書物の翻訳は米国や英国のものが多いが、本書はドイツの一般向けの書物であるという点でも貴重である。ドイツと日本ではやや異なる点もある。たとえば、ドイツでは精神科医師の大多数は精神分析家と書かれているが、日本ではむしろ少数であろう。また、ドイツでは最近になって「臨床心理士法」が成立したこともあり、著者はこれが「幻想をさらに助長している」としている。

我が国においても「こころ」の分野に限っては、マスコミや学会(?)さえもほとんど無批判な状態である。このような時にこの本は貴重なものだと思う。実はこの本のことは心理学関係の本からではなく、社会評論家の宮崎哲弥氏のコラム(新聞や週刊文春)で知ったのである。精神医学や心理学の分野には物理学における大槻教授のような論客はあらわれないものだろうか。

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